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最高裁判所第一小法廷 平成10年(オ)1183号 判決 1999年3月25日

上告人

納谷和己

右訴訟代理人弁護士

西澤豊

被上告人

泉北ビル株式会社

右代表者代表取締役

納谷哲雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西澤豊の上告理由第一点ないし第四点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判令の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

同第五点について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。(1) 上告人は、被上告会社の株主であり、昭和五九年当時は取締役であった。(2) 同年五月一二日に開催された被上告会社の株主総会において、取締役及び監査役を選任する原判決別紙記載の本件第一株主総会の決議(以下、同別紙記載の各決議を単に「第一決議」のようにいう。)が行われた。(3) その後、右取締役及び監査役の任期の満了時又はその中途において、その選任のため、順次、第四及び第五決議、平成元年五月二八日、同三年五月三一日、同五年五月三〇日の各決議、第八及び第九決議が行われた。(4) 第六及び第七決議は、商業登記簿にはこれらが行われたかのように記載されているが、実際には行われていない。

二  取締役及び監査役を選任する株主総会決議が存在しないことの確認を求める訴訟の係属中に、後の株主総会決議が適法に行われ、新たに取締役等が選任されたときは、特別の事情のない限り、先の株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益は消滅すると解される。

しかし、取締役を選任する先の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合においては、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会の招集決定に基づき右取締役会で選任された代表取締役が招集した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないこととなる(最高裁昭和六〇年(オ)第一五二九号平成二年四月一七日第三小法廷判決・民集四四巻三号五二六頁)。右は、後にされた決議が監査役を選任するものであっても、同様である。

そうすると、右のような事情の下で瑕疵が継続すると主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには先行決議の存否が先決問題となり、その判断をすることが不可欠である。先行決議と後行決議がこのような関係にある場合において、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、後者について確認の利益があることはもとより、前者についても、民訴法一四五条一項の法意に照らし、当然に確認の利益が存するものとして、決議の存否の判断に既判力を及ぼし、紛争の根源を絶つことができるものと解すべきである。

三  原審は、第一及び第四ないし第八決議の不存在確認を求める訴えについて、これらにより選任されたとされる役員の任期が満了し、最後の第九決議で役員選任が行われたことにより、訴えの利益を失ったとして、右訴えを却下した。しかし、第八決議中の監査役に関する部分については、その後に当該監査役の後任者が選任されたことの主張立証はないから、これに関する訴えの利益が失われたといえないことは明らかである。また、第一、第四及び第五決議並びに第八決議中の取締役に関する部分については、前記二で述べたところにより、第九決議の先決関係に立つ事項として、訴えの利益があるものというべきである。したがって、この点に関する原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものといわざるをえない。

ところで、原審は、第九決議の不存在確認請求について判断するに当たり、先行の第一、第四、第五及び第八決議の存在について十分な実体審理を遂げていることが記録上明らかであり、右先行決議の不存在確認請求について、更に原審において格別の審理判断を経なければならない実質上の必要はない。このような場合には、当裁判所において、原審のした認定に基づいて、各請求の当否について直ちに判断することが許されるものと解される。そして、原審は、前記一の事実を確定しており、これによれば、第一、第四、第五及び第八決議の不存在確認請求については、これを棄却すべきものであるが、この結論は原判決よりも上告人に不利益になるので、上告を棄却するにとどめることとする。

四  第六及び第七決議の不存在確認を求める訴えについては、同決議は第八及び第九決議の存否を確定するについての先決関係に立つものではなく、記録によれば、商業登記簿中、第六及び第七決議があることを前提として記載された役員欄の用紙は既に閉鎖されていることが明らかであり、右決議の不存在確認を求める訴えの利益について、他に特段の主張立証はないから、原判決中、右訴えを却下した部分は正当であり、論旨は理由がない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官大出峻郎)

上告代理人西澤豊の上告理由

上告理由第一点(本件株主総会決議の不存在)

原判決は、被上告人会社は昭和五九年五月一二日、小阪会館において、第一決議をしたとするが、その決議は、不存在である。

原判決には(原判決引用一審判決争点1についての記載第六丁裏九行目から第八丁裏四行目まで)、判決に影響を及ぼすべき法令の違背、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法があるから、破棄されるべきである。

一 第一総会(昭和五九年五月一二日株主総会)の決議は不存在である(上告人の供述、甲第一〇、二二、二六号証)。

株主総会決議の不存在とは、

1 決議が事実上存在しない場合

2 総会招集権限の無い者が招集した総会

3 一応総会ないし決議と称するに値するものが、存在するが、その成立過程の瑕疵が著しく、法律上決議があったとは、評価できない場合

をいう。

二 右株主総会招集のための取締役会は、開催されていず、第一総会招集のための取締役会の決議は、不存在である。

1 原判決は、被上告人会社代表取締役は、取締役会の決議を経ることなく、第一総会を招集したが、権限を有する被上告人会社代表者により招集されているという。

2 取締役会の決議なしに、代表取締役以外の取締役が招集した株主総会は、法律上の意義における株主総会とはいえないとする判例(最高判昭和45.8.20判例時報607―79)の趣旨は、「代表取締役以外の取締役」という点に重点があるのではなく、「取締役会の決議がない」という点に重点がある。原判決には、総会招集権限について、規定した商法第二三一条について著しい法令解釈の誤りがある。

3 取締役決議の不存在

取締役会の決議は、株主総会招集の前提要件であるが、第一総会にはこれがない(甲第一五号証)。

① 被上告人は、昭和五九年五月一二日総会開催に関する取締役会の議事録を、紛失したというが、経験則上、議事録を紛失するということはない。

② 原判決は、被上告人会社の取締役である上告人に、第一総会招集のための通知がなされなかったことが認められること、右取締役会議事録が証拠として提出されず、その理由もはっきりしないことに照らすと、右株主総会の招集について、取締役会の決議がなされたという被上告人会社代表者の供述は、信用できないとする。

原判決は、第一総会招集のための取締役会の決議が不存在であることを認める(原判決引用一審判決七丁裏八行目ないし八丁表一行目)。

4 総会招集権限

① 原判決引用一審判決八丁表二行目によれば、代表取締役は取締役会招集権限を有するとするが、代表取締役は、総会招集のための取締役会の決定なしに、総会の招集をなす権限を有するものではない。取締役会の招集決定があって、始めて招集権限を有するに至るものである。

② 総会の招集が取締役会の決議によったか否かは株主からすれば、会社内部事項であり、原則として知りえないから、内部責任はともかく、その瑕疵のゆえに、決議の不存在ないし無効とするのは、適当でないとする論旨は、取締役会の代表取締役に対する監督機能を無視するものである(最判昭和48.5.22民集二七巻五号六五五頁)。

5 被上告人会社の専務取締役である上告人に対し、第一総会の招集のための取締役会の招集通知をしないのは著しい違法である。

6 代表取締役が取締役会の決議によらないで招集した株主総会の決議の効力

① 総会招集は、取締役会の決定事項である(商法二三一条)。第一総会の招集については、取締役会の決議がない。

② 代表取締役が取締役会の決議に基づかないで招集した総会の決議は、総会招集の決定権が取締役会にある以上、無効である。

③ 第一総会は、総会招集無権限者納谷哲雄の招集であるから、その総会でなされた決議は当然に無効である。

三 第一総会招集のための取締役会が開かれ、そこで、納谷哲雄が、「納谷和己を外しますが」と提案すれば、必ず、異論が出る。

四 第一総会には、「議案」の上程がない。

1 取締役改選の件というのは、会議の目的たる事項であり、議案ではない。

議案とは取締役に誰々を、選任するということであり、あらかじめ候補者の氏名は明確にされていなければならない。第一総会では、これがない。甲第二〇号証の他社の株主に対する招集通知一六頁以下記載(議決権行使参考事項)と対比されるべきである。

2 何名選任というのは違法であるが、その人数すら明記されていない(甲第一号証)。

3 誰を役員に選任するのかということについて、全然分からない方法がもちいられている。

五 選任決議はない。指名は違法である(甲第一、一〇、二二、二五、二六号証、検甲第一号証)。

1 原判決は、納谷哲雄が取締役として、中谷一郎、中谷一正、納谷吉郎、納谷通弘、納谷恒次及び納谷計男の六名を挙げ、人員は七名であると明言したから、被上告人会社会代表者納谷哲雄を含む趣旨であったというが、どういう訳でふくまれるかについては、合理的な説明はない。原判決には理由齟齬または理由不備の違法がある。

2 納谷哲雄は、昭和五九年五月一二日当時、代表取締役であり議長であるから、選任候補者に当然入っているという論旨は成立しない。けだし、退任する代表取締役社長であっても、定款に定めがあれば議長となるからである(乙第一号証の被上告人会社の定款第一九条)。

3 原判決は、「議長一任との発言を受けて」というが、このような発言は、商法二三七条の四第二項の規定に違反する。議長がこのような発言を利用するのは違法である。株主総会において、可否同数のときは、議長の決するところによると定款に規定するのは、株主平等の原則、一株一議決権の原則が強く支配する総会の性質に反し無効であるとされ、可否同数のときは、否決されたものと解すべきであるとされている。

4 原判決は、議長の役員指名につき、適法性の問題はともかくとして、その妥当性に疑問があるというが、取締役の選任を議長に一任する方法は、妥当性の問題ではなく、違法であり無効である。

5 原判決は、出席株主の意思が一応反映されているというが、堀内秋夫との八百長発言の利用、間髪を入れない指名状況よりして、決議が存在したとはいえない。出席株主の意思は反映されていない(甲第二二号証)。

違法な指名は、決議とはならない。無効である。

6 株主平等の原則の趣旨尊重、一部株主の発言により会議の経過が変わることも有り得る会議の特性、多数社員の専横を制し、会社の公正な利益を保護するために認められた少数社員権、これらを尊重し、議長は、提案理由と共に誰々を取締役に選任する件について、皆様に御審議を賜りたいといわなければならない。

7 株主総会における議長は、会議進行権限・会場秩序維持権限のみを有するに過ぎず、役員を指名する権限は無い(商法二三七条の四第二項)。原判決は、商法二三七条の四第二項の規定の解釈を著しく誤るものである。

六 第一総会の議事録の虚偽記載

原判決は、被上告人会社代表者が選任(重任)された旨の株主総会議事録が作成されているというが、議事録には選任のあった事実を記載しうるものであり、記載により選任の事実が創設されるものではない。選任がないのに、これあるものと記載しても、選任があったことにはならない。

判例は、総会決議がないのに、議事録にこれあるものとして、虚偽の事実が記載されていても、総会決議は不存在であるとする(最高判昭和45.7.9民集二四―七―七七五)。

七 第一決議不存在判断のために勘案されなければならない特別事情(上告人準備書面、上告人本人陳述書、同本人尋問結果)は、左記のとおりである。これら事情は、上告人が、被上告人会社筆頭株主として、被上告人会社の正当な権利・利益を、擁護・確保するために必要不可欠の事項である。

1 被上告人会社納谷哲雄は、上告人を、何が何でも、あらゆる策を用いて、排除せんとする戦略的意図を露骨に現わしている。第一総会手続は、上告人に対する不当な戦略的意図をもって、役員選任手続が、何人にもはっきりわからない方法を用いて、手続が進められている。著しい手続瑕疵が存する。

2 第一総会招集のための取締役会の招集通知は、上告人になされていない(甲第一五号証)。違法である。

3 第一総会招集のための取締役会は、開催されていない(原判決引用一審判決第七丁裏八行目から同九丁表一行目まで)。

4 上告人に対し、第一総会の適法な招集通知をしていない(甲第二六号証、商法第二三二条)。三日前に通知が上告人に到達している。違法である。

5 第一総会招集通知に候補者の氏名が記載されていない。任期満了につき「改選の件」とのみ記載され、人数も候補者名も記載されていない。

6 読み上げた人員は七名であったからというが、これにより、納谷哲雄が選任されたという論旨は成立しない。

7 第一総会の議事録(乙第二号証の一)は、各本人(上告人が含まれる)の確認を得ず、納谷哲雄が、市販印を用いて作成した。これをもって決議存在の根拠とする原判決は、書類を作成すれば、その前提事実が不存在でも、当該書類記載内容に沿う効力が発生すると解するものであり、著しい法令解釈の誤りがある。

8 原判決は、出席株主の意思が、一応反映されているというが、堀内秋夫との八百長劇であって、全然反映されていない。

9 上告人の被上告人会社における地位

① 上告人は、被上告人会社発行ずみ株式総数六〇万株(額面株式一株の金額五〇円)のうち、七万〇二〇〇株(12%)を有する筆頭株主であり、昭和五九年当時、被上告人会社の専務取締役である。上告人は、亡父納谷重一とともに、被上告人会社を経営してきた。紡績業から不動産賃貸業の泉北ビル株式会社への転換を企画し、これを完遂したのは、上告人である。

② 上告人は、昭和五〇年ころから、紡績業(泉北紡績株式会社)から泉北ショッピングセンターへの転換を企画し、極めて、対人関係において、難しい商業調整(当時の大店法のもと)を、株式会社長崎屋の分の商業調整までを引き受けてやり遂げ、泉北ビル株式会社ショッピングセンター(核店舗長崎屋)を完成した。

10 納谷哲雄の被上告人会社私物化防止のため、同社株主総会の健全な運営は必要不可欠事である。

① 第一総会における納谷哲雄の前記違法行為は、

納谷哲雄が、特別受益超過のため、具体的相続分がないのにかかわらず、遺産を独占しようとし、また、上告人の返還要求にもかかわらず、上告人所有の収益の不法領得行為を継続しているので(甲第四二号証)、これが違反であると指摘した上告人を逆恨み敵視し、被上告人会社の利益を無視し、個人的感情から上告人を排除しようとした意図の顕現である。

② 被上告人は、株主に一円の配当をもしていない。欠損金があるのに、納谷哲雄は約二〇〇万円、その子二人は、各一挙倍額に給料を増額し(甲第四二号証二二頁)、親子三人で年間合計三二九〇万円を取得している。

③ 納谷哲雄の個人訴訟の費用が、被上告人会社から出資されている。

④ 納谷哲雄は、株式会社長崎屋の商業調整金を、泉北ビル株式会社の金員であると、虚構して、上告人に対し、陥穽的行動をしている。

11 本件訴訟は、本件会社の筆頭株主である上告人が、本件会社の所有者としての監督者としての立場からの訴訟である。被上告人会社の利益を守るための訴訟である。会社は永続しなければならない。そのためには、株主総会が公正に運営されなければならない(上告人尋問調書、上告人陳述書)。

12 以上は、第一総会決議不存在の判断のために、必要不可欠な考慮すべき事情である。

八 第一決議は不存在である。

(一) 以上のような第一総会前後の一連の違法な諸事実を総合判断すれば、第一総会は、一応総会と目されるものが、すれすれに存在するとしても、その一連行為の各部分の瑕疵は著しいから、総会の決議があったものとは、到底評価できない。第一決議は不存在である。

にもかかわらず、決議の存在を否定するほどの著しい瑕疵とはいえないとする原判決には、判決に影響を及ぼすべきこと明かな審理不尽、採証法則並びに法令解釈違反等の違法があり、原判決は、破棄されるべきものと思料する。

(二) 第一決議は、不存在であるから、爾後の各決議(第二ないし第九決議)も、順次招集権限を欠く者の招集にかかるものとして、将棋倒しになるから、先の訴えにつき訴権利益を有する。にもかかわらず、これを否定する原判決には、理由齟齬があり、判決に影響を及ぼすべきこと明かな審理不尽、採証法則並びに著しい法令解釈の誤りがある。原判決は、破棄されるべきである。

九 第二決議は不存在である。

被上告人は、昭和六〇年五月一一日、第二総会において、第二決議をしたとしている。しかしながら、第二決議は、左記理由により不存在である(甲第一〇、二二、二六号証)

1 第一決議は、前記のとおり不存在であり、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。

2 第二総会は、総会招集権限のない納谷哲雄が招集したものであるから不存在である。

一〇 第三決議は不存在である。

被上告人会社は、昭和六〇年一〇月一九日、第三総会において、第三決議をしたとしているが、第三決議は、左記理由により不存在である。

1 第一決議は、不存在であり、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。

2 第三総会は、総会招集権限なき納谷哲雄が招集したものであるから不存在である。

一一 第四決議は不存在である。

被上告人会社は、昭和六一年五月一〇日、第四総会において、第四決議をしたとしているが、第四決議は、左記理由により不存在である。

1 第四決議は、不存在である(甲第一〇、二六号証)

2 第一決議は、不存在であり、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。第四総会は、総会招集権限のない納谷哲雄が招集したものであるから不存在である。

一二 第五決議は不存在である。

被上告人会社は、昭和六三年五月一五日、第五総会を招集し、第五決議をしたとしているが、第五決議は、左記理由により不存在である。

1 第五決議は、不存在である(甲第三〇号証)。

2 第一決議、第四決議は、不存在であり(甲第一〇、二二、二六、二九号証)、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。第五総会は、総会招集権限のない納谷哲雄が招集したものであるから不存在である。

一三 第六決議は不存在である。

被上告人会社は、平成二年五月三一日、第六総会を招集し、第六決議をしたとしているが、第六決議は、左記理由により不存在である。

1 第六決議は、不存在である(甲第二七、三二号証)。

2 第一決議、第四決議、第五決議は、不存在であり(甲第一〇、二二、二六、二九、三〇号証)、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。第六総会は、総会招集権限なき納谷哲雄が招集したものであるから不存在である。

3 被上告人は、平成二年五月三一日には、決議をしていないが、その前年の平成元年五月二八日に決議しており、これを流用したというが、平成元年五月二八日にそのような決議はない(上告人本人尋問の結果)。流用理論は認められない。

一四 第七決議は不存在である。

被上告人会社は、平成四年五月三〇日、第七総会を招集し、第七決議をしたとしているが、第七決議は、左記理由により不存在である。

1 第七決議は、不存在である(甲第二八、三二号証)。

2 第一決議、第四決議、第五決議、第六決議は、不存在である。従って、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。第七総会は、総会招集権限のない納谷哲雄が招集したものであるから不存在である(甲第一〇、二二、二六、二九、三〇、三二号証)。

3 被上告人は、平成四年五月三〇日には、決議をしていないが、その前年の平成三年五月三〇日に決議しており、これを流用したというが、平成三年五月三〇日にそのような決議はない(上告人本人尋問の結果)。流用理論は認められない。

一五 第八決議は不存在である。

被上告人会社は、平成六年五月二九日、第八総会を招集し、第八決議をしたとしているが、第八決議は、左記理由により不存在である。

1 第八決議は、不存在である(甲第二八、三二、四一号証)。

2 第一決議、第四決議、第五決議、第六決議、第七決議は、不存在である。

従って、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。第八総会は、招集権限のない納谷哲雄が招集したものであるから不存在である(甲第一〇、二二、二六、二九、三〇、三二、四一号証)。

3 被上告人は、平成六年五月二九日には、決議をしていないが、その決議は、前年の平成五年五月三〇日に決議しており、これを流用したといい、平成六年五月二九日にも念のために決議したというが、いづれの決議も不存在である(甲第四一号証)。流用理論は認められない。

一六 第九決議は不存在である。

被上告人会社は、平成八年六月二三日、第九総会を招集し、第九決議をしたとしているが、第九決議は、左記理由により不存在である。

1 第九決議は、不存在である(甲第四四号証)。

2 第一決議、第四決議、第五決議、第六、第七、第八決議は、不存在である。従って、納谷哲雄は、取締役に選任されていない。

3 第九総会は、総会招集権限のない納谷哲雄が招集したものであるから不存在である(甲第一〇、二二、二六、二九、三〇、三二、四〇、四一、四四号証)。

上告理由第二点(第六、第七決議の不存在、決議溜めは無効)

一 第六、第七総会決議の不存在

原判決は、第六(平成二年)、第七(平成四年)総会決議が不存在であることを認める。

1 第六総会招集状について、役員についての議案がないことは、甲第三九号証上告人陳述書一四頁、甲第二七号証の総会招集通知書に役員選任事項が記載されていないことから明かである。

2 第七総会招集状について、役員についての議案がないことは、甲第四〇号証上告人陳述書六頁、甲第二八号証の総会招集通知書に役員選任事項が記載されていないことから明かである。

二 原判決は、「理由」中、原判決引用一審判決第九丁裏第二行目において、「第六総会(平成二年)、第七会総会(平成四年)の各前年になされた役員選任決議を流用したとする。そして、右のような流用を認める法令ないし理論上の根拠はなく、その必要性もないから、第六、第七決議は不存在であるといえる。という。

三 原判決は、「理由」中、原判決五丁、原判決引用一審判決一〇丁において、「前記三のとおり、第六、第七決議で流用された各前年の役員選任決議及び第八決議の前年である平成五年度の役員選任決議が、物理的に存在し、本件全証拠によるもその効力を否定すべき事情は見いだせないから、被上告人会社代表者のなした第八、第九決議にかかる被上告人株主総会の招集は適法なものとみるべきであるという。

四 原判決には、理由不備又は理由齟齬の違法がある。

1 「第六、第七決議は不存在である」といっているのに、その不存在の議決で、どうして、流用できるというのか。流用とは、どのようなことを言うのか。

いづれについても、合理的な説明がなされていず、理由不備または理由齟齬の違法がある。

2 原判決は、物理的存在というが、単なる物体ではなく、株主総会決議であり、それは、何時、何処で、誰々が、どういう目的で、如何になしたか、という各点から、分析検討しなければならない。

3 何時、なされたかということは、重要である。

決議溜めは、商法二三四条の法意(左記①ないし④)に反し認められない。

にもかかわらず、原判決が、これをなしうるものとするのは、商法二三四条の著しい解釈誤りである。

記(商法二三四条の法意、趣旨)

① 総会の招集時期は、法定されており、役員は、その経営内容について、企業の所有者たる株主の審判をうけなければならず、ある年度において、その向後数年先までの役員選任決議を、なしうるものと解する原判決は、株式会社法理に根本的に背反する。

② 株主総会は、毎年一回一定の時期に本店の所在地またはこれに隣接する地内の場所において、招集開催しなければならない。

③ 各株主に対して、二週間前に必要書類(議案、計算書類等)を添付し、必要事項を記載した招集通知を発しなければならない(商法二三二条一、二項)右法意は、企業の所有者である株主が、営業年度中の取締役としての実績を審査し、経営者として不適格者を、役員から外しうる機会を与えることにある。

④ 前もって、将来の年度分まで役員選任決議ができるものとする解釈は、株式会社法理及び右法条よりしてできない。

⑤ 株式会社は社会の公器である。法に則して、運営されなければならない。

4 原判決は、商法二三四条一、二項、商法二三二条一、二項の解釈を著しく誤り、改選時期の一年前に、まえもって、役員選任決議をなしうるものと解するが、右法意よりして、その前年になした決議は無効であると解すべきである。

一〇年先の役員選任決議をできるとは、誰も考えていないし、来年の株主総会の決議を今年にできるとは、誰も考えていない。

5 以上のように、その前年の決議はないし、また、原判決がいう「流用」は無効である。にもかかわらず、流用の効力を否定すべき事情は見いだせないから、被上告人会社代表者のなした第八、第九決議にかかる被上告人株主総会の招集は適法なものとみるべきであるという原判決(原判決引用一審判決一〇丁表争点4の2の記載)には、判決に影響を及ぼす法令の違背、審理不尽、理由不備または理由齟齬の違法があるから、破棄されるべきである。

上告理由第三点(自白は成立する。最高裁判例)

一 被上告人は、上告人主張の第六総会(平成二年)、第七総会(平成四年)の各決議が存在しない事実(上告理由第一点の一の1に該当)について認める。

これは、事実についての陳述であり自白である。

二 判例はかかる場合、自白を認める《最高判昭和三八・八・八民集一七巻六号八二三頁》。

同判例は、株主総会決議不存在確認判決に対世的効力を認めながら、その訴訟において裁判上の自白に関する民訴法二五七条を適用した原判決を支持している。

三 原判決が、右自白を請求の認諾と解するのは(原判決引用一審判決一一丁表七行目から九行目)、理由齟齬があり、判決に影響を及ぼすべきこと明かな審理不尽、採証法則並びに法令解釈違反等の違法があるので、原判決は破棄されるべきである。

上告理由第四点(錯誤はない)

一 被上告人は、上告人主張の請求の趣旨八項(平成六年、第八総会)にかかる請求原因事実(上告理由第一点の一の1に該当)を認めた。

その後、これは、真実に反し、錯誤があるから撤回するというが、右撤回は、左記理由により認められない。

1 被上告人は、一〇八期(平成六年五月二九日)において、選任決議をしていたことを、担当者が失念して、第一〇四期(平成二年)、第一〇六期(平成四年)と同様の扱い(流用)をするものと誤信していたため、一〇八期(平成六年)において、役員選任決議がなされなかったと答弁したと述べ、その答弁が真実に反しているというが、真実に反していないし、錯誤はない。

2 被上告人は自己の不正直を「錯誤」と称しているにすぎない。

3 株主総会には、決算書の承認、営業報告、役員選任があり、経験則上、誤解したり、失念するような事項ではない。

4 錯誤の主張には、それを基礎づける事実の存在を必要とするが、これがない。

5 原判決は、納得しうる合理的な理由を示さず、錯誤があったと判断しているが、著しく経験則(法令)に反し判決に影響を及ぼすべき著しい審理不尽、採証法則違反、法令解釈の誤り、理由齟齬等の違法があるので、原判決は破棄されるべきである。

二 第八総会での役員選任決議はない(上告理由第一点の一の1に該当)。

また、招集権限なき者の招集にかかるので、第八決議は、右両面からして、不存在である。

上告理由第五点(訴の利益の存在)

一 前記のとおり、第一決議は、不存在であるから、爾後の各決議(第二ないし第九決議)も、順次招集権限を欠く者の招集にかかるものとして、将棋倒しになるから、先の決議につき、上告人は訴の利益を有する。

にもかかわらず、これを否定する原判決には、理由齟齬があり、判決に影響を及ぼすべきこと明かな審理不尽、採証法則並びに著しい法令解釈の誤りがある。

原判決は、破棄されるべきである。

二 前記のとおり、第六、第七、第八決議は、不存在であるから、爾後の各決議も、順次招集権限を欠く者の招集にかかるものとして、将棋倒しになるから、先の訴えにつき、上告人は、訴の利益を有する。

にもかかわらず、これを否定する原判決には、理由齟齬があり、判決に影響を及ぼすべきこと明かな審理不尽、採証法則並びに著しい法令解釈の誤りがある。

原判決は、当然破棄されるべきである。

三 (訴えの利益についての判例)

取締役選任の総会決議不存在確認訴訟の係属中、当該取締役が任期満了によって退任し、新たに総会で後任取締役が選任され、訴の追加的変更により後の総会による後任取締役選任決議無効確認の訴が提起された場合、後任取締役を選任した総会は招集権限のないものが招集した総会であることを理由とするときは、退任した取締役に関する先の総会の決議不存在の確認の訴の利益はなお存続する(大阪高判昭和四〇・一・二八高民集一八・一・一四)。

四 本件において、考慮されるべき特別事情は、前記上告理由第一点の「七」に、記載のとおりである。

本件は、原判決が引用する一審判決一〇丁裏七行目記載の事案内容とは異なる。本件においては、上告人において、被上告人会社を不安定にする意図はなく、また、そのような行為もない。

上告人は、筆頭株主として、また、被相続人とともに経営してきた被上告人会社の全体の利益確保のため、公正な株主総会の運営の確保こそ基本命題であると解し、本件総会決議不存在確認を求めているものである。

結語

株主総会の形骸化防止のため、商法の規定は誠実かつ厳格に遵守されなければならない。

以上のとおり、原判決には、判決に影響を及ぼすべき著しい法令の違背、採証法則違反、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法があるから、当然破棄されるべきである。

以上

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